大判例

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東京家庭裁判所 昭和47年(家)5389号・昭47年(家)5390号 審判

主文

申立人らの氏「井上」を父の氏である「池田」に変要することを許可する。

理由

I  申立の実情

申立人らは、申立人ら法定代理人父池田豊(以下単に申立人ら父という)と母井上愛子との間に出生した婚外子であるが、出生以来父母と同居して監護養育されており、父の認知を受けまた親権者を父と定めている。このような関係にありながら父と氏を異にするのは日常万事につけて不便であり、また申立人幸一郎は昭和四八年四月に小学校入学予定であるので、就学前に父の氏である「池田」に変更する必要があり、本件申立に及んだ。

II  当裁判所の判断

(1)  申立人ら法定代理人父本人、参考人池田良各審問の結果ならびに本件記録中の戸籍謄本その他の資料によると次の事実が認められる。

(イ)  申立人らの父は昭和二五年一〇月一九日に先妻と離婚して長男一郎をひきとり育てていた。その後同二八年六月五日に妻良と結婚し、同年五月二八日長男二郎が、同三〇年一月二六日二男三郎が、同三四年九月一〇日長女光子がそれぞれ生まれているが、夫婦仲が悪くなり、同三九年から妻子と別居して今日に至つている。申立人ら父は同四四年には妻良を相手方として家庭裁判所に調停(当庁昭和四四年(家イ)第二三五六号夫婦関係調整事件)を申立て、離婚について話し合つたが、妻が応じなかつたため調停は不成立となり今日まで別居生活が続いている。

(ロ)  申立人らの父は、妻良と別居後申立外井上愛子と同棲し、同人との間に昭和四一年四月八日申立人幸一郎が、同四五年五月一九日同昭二が出生した。申立人らは出生時より父母と同居しており、出生後間もなく父によつてそれぞれ届出による認知がなされ同四七年六月二日には母との協議によつて、親権者を父と定める旨の届出がなされている。

(ハ)  申立人らの父は、妻良と別居した直後には子供の養育費として月額五、〇〇〇円を妻に送つていたが、その後仕送りは中断したままであり、一郎、二郎が自立した現在、高校三年の二男と中学一年の長女は妻良の多少の収入と生活保護で生活している。妻は現在でも結婚の意思はなく、また申立人らの氏を父の氏に変更することには反対している。

以上の事実が認められる。

(2)  以上の認定事実に基づき本件申立を検討すると、

(イ)  申立人らは出生以来父母と同居して、その監護を受け養育されており、父の認知を受け親権者も父と定められている。このように未成熟子が父と共同生活関係にあり、その監護養育を受けているときは、子と父と同一氏を称せしめることが子の福祉にかなうものと一応考えられる。

(ロ)  ところが、申立人らの父の妻良が申立人らの氏の変更に反対している。その理由は子の氏変更により、夫婦の婚姻家族の戸籍に夫の非嫡出子が入籍されることに対する感情的反発に基づくものと解される。そこで未成熟の福祉と婚姻家族の尊重と、どちらをとるべきかが問題となる。考うるに、婚外子が同一戸籍に入つてくることへの妻や子の嫌悪感は理解できないものではないが、婚外子の認知の事項は既に夫の戸籍に記載されているから婚外子の存在が既に戸籍上明きらかになつている以上、さらに一歩進んで子の氏変更により入籍しても、戸籍上表記されていることには実質的な違いはないともいえるのである。したがつて、本妻の反対は、単なる感情的反対以上に、子の氏変更を拒否する実質的理由に乏しいことになる。

(ハ)  一方、婚姻家族の尊重に関連して申立人ら父が、婚姻家族に対し婚姻費用分担の義務を怠る等の不誠実な行為のあるときには、婚姻家族保護の立場から子の氏変更を拒否すべきではないかという点も問題である。この点を考えてみると、婚姻家族が充分に保護されるべきであることは言うまでもない。婚姻家族に対して経済的な義務すら果たしていない父が、家庭外にもうけた子を婚姻家族の戸籍に入籍させようとするのは婚姻家族の利益を無視するものということができよう。

しかしひるがえつて未成年者である非嫡出子の立場から考えてみると自らには何の責任もない非嫡出子が、父親の婚姻家族に対する有責行為の有無という偶然的な事情によつて、氏の変更ができたり、できなかつたりすることになり、いうなれば親の責任を子に転嫁させるという結果になつてしまうであろう。

(ニ)  一方、婚姻中の妻の生んだ婚外子の場合を考えると、嫡出否認或は親子関係不存在確認により婚外子であることが明確になつた場合でも夫の好むと好まざるとにかかわらず当然に母親のすなわち婚姻家族の戸籍に記載されたままになることになる。この場合には婚姻家族の利益の保護を考慮する余地は全くないのである。したがつて、夫の婚外子の入籍の場合のみを問題とすることは片手落のそしりを免れない。

(ホ)  もともと現行の戸籍制度によると婚外子が父と氏を同一に変更する場合、婚姻家族の戸籍に入籍させる他記載方法がなく、戸籍編成の技術上、婚姻家族の尊重がはかれないことに問題があるのであつて、非嫡出子につき単独戸籍を作成する等、戸籍編成の現状こそ改善すべきであつて、婚姻家族の感情利益に同調して未成年者が父と同一の氏を称することを拒否し、もつて子の福祉を犠牲にすべきではないと解される。

(ヘ)  さらにまた、本妻の反対は単に戸籍の記載に対する日本的な因襲的感情に根ざすところが多分にあり、この反対感情を過大評価することの必ずしも婚姻の尊重になるということはできない。夫に婚姻外の子が出生し、夫がその母とともに義育していることは事実であり、この事実状態を解消させることは既に不可能な事情にある。むしろ、婚姻家族の尊重のためには申立人ら父に対し、婚姻費用分担の義務を果たさせるべきものと解されるところ、当手続中において、申立人らの父はこの義務の履行を約している。

(3)  以上一切の事情を考慮し、本件各申立を認容すべきものと判断する。

よつて、本件各申立は理由があるものとしてこれを認容し、主文のとおり審判する。

(家事審判官 野田愛子)

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